【Unlucky Morpheus】奇子 ~ Unknown Child|曲名の読み方、その意味とは?

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「U.N.オーエンは彼女なのか?」ボーカルアレンジ厳選まとめ Vol.11

「U.N.オーエンは彼女なのか?」のボーカルアレンジ特集、第11回目をお届けする。今回は、2008年に結成されたメロディック・スピードメタルバンド、Unlucky Morpheus(アンラッキー・モルフェウス)の「奇子 ~ Unknown Child」をご紹介したい。

奇子 ~ Unknown Child

Unlucky Morpheusは、2008年に天外冬黄氏(現在の名義はFuki)と平野幸村氏(現在の名義は紫煉)の2人によって結成されたメロディックメタルバンドで、テクニカルでスピーディなメタルサウンドと迫力のある女性ボーカルが特徴。東方アレンジにおいては、男女ツインボーカルや男性ボーカル楽曲のイメージも強い。「あんきも」という通称でも知られる。天外冬黄氏が「通り名はあんきも」と言ったことから、それに合うように「Unlucky Morpheus」という名前を無理やり作ったらしい。活動から15年が経過し、日本のメロディックメタルファンの間では高い知名度を誇るバンドだが、そのルーツには「東方Project」が深く関わっているのだ。

「奇子 ~ Unknown Child」は、Unlucky Morpheus最初期楽曲のうちの一つ。2009年にリリースされたアルバム「REBIRTH」に収録されている。天外冬黄氏が作詞とボーカルを担当し、平野幸村氏がアレンジを手掛けた。Unlucky Morpheusらしい激しいメタル楽曲で、天外冬黄氏の声は力強く、ヘビーなギターとバイオリンの雰囲気にもぴったりハマっていて、演奏の勢いに全く負けていない。Unlucky Morpheusはライブパフォーマンスが素晴らしく、まるでCD音源かのように安定した演奏や歌唱をすることで知られているが、この楽曲も例外ではない。Unlucky Morpheusの公式チャンネルでは、2019年に敢行された東方アレンジオンリーライブツアー「Lunatic East 2019 TOUR FINAL」の映像が配信されているのでひと目見ていただきたい。

この曲の特徴のひとつは、「U.N.オーエンは彼女なのか?」のイントロ部分を、原曲のスピード感を保ちつつ歌わせるという、やや珍しいアレンジ手法だ。早口で、セリフのようにスムースに歌い上げてゆくさまは、聴いていて非常に気持ちいい。さらに、長めにアレンジされた間奏も大きな特徴で、テクニックを魅せるギターソロや、いっとき静まり返り、静寂とともにバイオリンを前面に持ち出すフレーズなど、多彩なバリエーションが展開されリスナーを飽きさせないのだ。

「奇子 ~ Unknown Child」の歌詞は、フランドール・スカーレットの孤独や絶望感を表現していると素直に解釈できる内容になっている。ただ、これだけでは曲名の意味は説明がつかない。2017年に頒布された、あんきも攻略本「UNLUCKYMANIA(アンラッキーマニア)」では、天外冬黄氏が影響を受けたバンドのひとつとして、ヘヴィメタルバンド「陰陽座」を挙げている。陰陽座にも「奇子」という楽曲があるのだが、これは手塚治虫の漫画「奇子」をモチーフとしている。この漫画は、ある事情から暗く狭い土蔵の地下室に閉じ込められた少女「奇子」を主人公とした物語で、陰陽座はこの漫画に着想を得て「奇子」という楽曲を生み出したのだ。陰陽座のフォロワーとも言えるUnlucky Morpheusが、陰陽座の「奇子」に影響を受け、地下室に閉じ込められるという共通の境遇を持つ「フランドール・スカーレット」と「奇子」という二人の少女を重ね合わせた楽曲、それが「奇子 ~ Unknown Child」というわけだ。

このように、音楽と漫画、アートとアートが織り交ざり、影響を受け合い、新たな作品が生み出される過程は非常に興味深く、アーティスト同士が異なる文化やジャンルからインスパイアを受け、独自の視点や感性で作品を紡ぐことが、インディーズ文化や東方アレンジの魅力の一つであると言える。

「奇子 ~ Unknown Child」は、Unlucky Morpheusの代表曲のひとつであり、東方アレンジファンのみならず、日本のメロディック・スピードメタルバンド好きな方にも絶対に聴いていただきたい一曲だ。