東方アレンジの世界は、その音楽的表現の圧倒的な幅広さにより、常に新鮮な感動をリスナーに提供し続けている。その多種多様な表現の中でも、今回注目したいのが男女ツインボーカルによる楽曲の存在だ。男性ボーカルアレンジ自体が比較的少ないためか、東方アレンジにおけるツインボーカルは主に二人の女性ボーカルによるものが中心となっている。しかし、この記事ではあえて男性女性の組み合わせで構成されるアレンジを紹介したい。男女ツインボーカルの魅力は二重の女性ボーカルとはまた違った独自性と深みを持っているからだ。
男女ツインボーカルによる楽曲は、その響きのコントラストと、男性女性の声質が融合して生み出される調和が何より魅力的だ。曲中でボーカルが入れ替わる瞬間や、ツインボーカルが掛け合いを展開する場面、同時に歌い上げる美しいハーモニーなど、男女ツインボーカルならではの特性から生まれる見どころは一つ一つが聴き応え抜群だ。
そんな特性と魅力を最大限に活かした東方アレンジの男女ボーカル楽曲を厳選し、ここで紹介したい。
Florentia
女性メインボーカル+男性スクリーム
サークル:Foreground Eclipse
ボーカル:Merami氏、Teto氏
原曲:天空の花の都、幽霊楽団 〜 Phantom Ensemble
2009年から2013年までの活動期間中、東方アレンジ界隈で独自の風格を放っていたスクリーモ系バンド「Foreground Eclipse」の名曲、「Florentia」。エモ的な疾走感と、スクリームという独特の絶叫を融合させたスクリーモジャンルのこの曲は、Merami氏のハイトーンな美しい歌唱とTeto氏の迫力あるスクリームが見事に組み合わさり、非常にインパクトのある楽曲となっている。ちなみに、Merami氏は有名な「めらみぽっぷ」氏の別名義で、彼女の多面的な才能をこの楽曲で堪能することができる。残念ながらバンドは方向性の違いから事実上解散となってしまったが、その独特のサウンドは今も多くのファンに愛されている。
My chill Firework
男女ツインボーカル
サークル:マッカチン企画
ボーカル:ケニー氏、パイン氏
原曲:感情の摩天楼 〜 Cosmic Mind
長きにわたり独自のサウンドを展開し続けている「マッカチン企画」の代表曲、「My chill Firework」。原曲のメロディを活かしつつ、スピード感と爽やかな雰囲気を併せ持つロックミュージックとしてアレンジされている。サークルの中心メンバー、シンゴ氏率いるマッカチン企画は、ロキノン系サウンドに渋谷系のエッセンスを融合させたスタイルで知られ、東方アレンジ界隈では珍しい男女ツインボーカルが特徴的なバンドとして多くのファンから支持されている。10年以上の活動歴を持ち、その間ブレることなく一貫した音楽性で東方アレンジを提供し続けている実力派バンドの一つだ。
愛き夜道
女性メインボーカル+男性ラップ
サークル:魂音泉
ボーカル:たま氏、ランコ氏、雨天決行氏
原曲:砕月
「砕月」のアレンジらしく、心地良いピアノの旋律を中心にたま氏の温かくも切ない歌唱が展開。途中に雨天決行氏による男声のラップが入るという構成は、かつての魂音泉の魅力を感じさせる。ゲストボーカルとして豚乙女のランコ氏のボーカルも加わり、楽曲に華を添えている。正確にいえばトリプルボーカルといったところだろうか?魂音泉は、K’s氏(Coro名義)と「たまちゃん」として知られるたま氏が中心となっていたが、ある事情でたま氏がサークルを去ることとなった。たま氏の美しい歌声を再び聴くことが難しくなった現状を前に、この楽曲を聞くたびに複雑な感情が湧き上がる。
神獣の名の下に
男女ツインボーカル
サークル:IOSYS
ボーカル:あゆ氏、nyanyannya氏
原曲:プレインエイジア
ボーカルにはIOSYSで数多くの楽曲を歌唱したあゆ氏と、かつて「エアーマンが倒せない」でニコニコ動画界隈を風靡したTeam.ねこかん[猫]のnyanyannya氏を迎えている。各展開ごとにボーカルが入れ替わるようになっていて、男女ツインボーカル楽曲の中でも聴きやすい構成となっている。IOSYSはコミカルな楽曲での知名度も高いが、この楽曲はいわゆる「ガチ曲」としてそのクオリティの高さが際立っている。中盤のピアノソロやギターソロの部分も聴きごたえがある。IOSYSの「プレインエイジア」アレンジの中でも、特にこの曲は秀逸との声も多い。
二つの翼
男女ツインボーカル
サークル:IOSYS
ボーカル:Dummy氏、あさな氏
原曲:Lotus Road、Border Land、Magic shop of Raspberry
「二つの翼」は、いわゆる旧作の「東方幻想郷 ~ Lotus Land Story」の、それも未使用曲をフィーチャーするというユニークな楽曲である。ボーカルには、Dummy氏とあさな氏が迎えられ、その掛け合いは単なる交互の歌唱だけでなく、ハモり、裏メロでの異なるメロディの歌唱、同時に同じ歌詞を歌って強調するなど、多彩な技法が取り入れられている。シンプルで聴きやすい「神獣の名の下に」のツインボーカルとは異なるアプローチをとりつつも、IOSYSの「ガチ曲」であることは共通点。アップテンポで力強く、変わりゆく展開が聴き手を魅了する楽曲の中で、そのクオリティの高さは際立っている。
以上、東方アレンジ楽曲の中から男女ツインボーカル楽曲を厳選して5曲をピックアップし、その魅力をご紹介した。それぞれ異なる楽曲ごとに、男女のボーカルの表現方法も異なっているのが面白い。記事の長さの都合上、今回はこの5曲で前編とさせていただきましたが、次週後編として、さらに5曲を取り上げる予定だ。次回の記事も、是非お楽しみにお待ちください!
後編を公開しました!
【追記】読者さまよりご指摘を受け、Florentiaの原曲を訂正いたしました。「幽霊楽団」のみを記載しておりましたが、正しくは「天空の花の都」と「幽霊楽団」の2曲が使用されています。