レミリアの心情を歌う|少女フラクタルの「必然のカタストロフィ」考察

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「亡き王女の為のセプテット」ボーカルアレンジ厳選まとめ Vol.7

東方Projectの名曲「亡き王女の為のセプテット」をボーカルアレンジした楽曲を紹介するシリーズ、第7回目である。今回は、少女フラクタルの「必然のカタストロフィ」についてご紹介したい。

必然のカタストロフィ

少女フラクタルは、嵯峨飛鳥氏が代表を務める同人サークルで、2014年から活動を開始した。幽閉サテライト(東方アレンジを中心に制作する同人音楽サークルで、同じく嵯峨飛鳥氏が代表を務めている。)の姉妹サークルとして活動を始めた。少女フラクタルは、幽閉サテライトと同様に東方ボーカルアレンジを制作する一方で、オリジナル曲や他のジャンルの曲も手がけている。また、同人音楽の枠にとどまらず、TVアニメ「バーナード嬢曰く。」の主題歌「らぶ!ライブラリー」や、スマホゲームへの楽曲提供、舞台やミュージカルの出演、国内外のライブイベントなど、様々なメディアで活躍してきた。現在は、二羽凛奈氏と朔間咲氏の二人のメインボーカルを中心に活動している。

「必然のカタストロフィ」は、2014年に頒布された少女フラクタルの1stアルバム「必然のカタストロフィ」に収録された楽曲で、幻想万華鏡の挿入歌としても知られている。原曲はレミリア・スカーレットのテーマ曲「亡き王女の為のセプテット」のみを使用し、歌詞もレミリアに関する内容となっている。作詞はかませ虎氏、編曲はHiZuMi氏、歌唱は柚木梨沙氏が担当した。また、少女フラクタルの4thアルバム「色は匂へど散りぬるを」には「必然のカタストロフィ(Ballad ver.)」という、tq氏の編曲によるピアノバラード版も収録されている。

HiZuMi氏は、ポピュラー・ミュージック系の音楽性を得意とする作曲家で、幽閉サテライトでも多くの楽曲を制作している。手掛けた東方アレンジとしては、KONAMIの音楽ゲームとのタイアップ企画向けに制作された、遠野幻想物語アレンジ「取り残された美術」などが有名な作品だ。「必然のカタストロフィ」と「取り残された美術」を聴き比べると、ピアノやストリングス、歪んだギターなど、生音系の楽器と電子ドラムを組み合わせたサウンドや速いテンポの4つ打ちリズムなどが共通点として見えてくる。HiZuMi氏は自身の得意な音楽性を存分に発揮しつつも、「必然のカタストロフィ」では原曲「セプテット」の威厳な雰囲気もしっかりと残している。また、ストリングスの旋律からはどことなく和風な雰囲気も感じられ、幽閉サテライトらしい一面も感じられる。

柚木梨沙氏の力強くも優しい歌声が印象的で、レミリアの孤独や狂気を見事に表現している。特に、終盤のシンセサウンドのソロから最後の大サビに向かう盛り上がりは圧巻。シンセサウンドが勢いを増し、柚木梨沙氏の歌声と相まって、曲全体に力強さと情熱が満ちている。そして、かませ虎氏の歌詞にも深い意味が込められている。レミリアが誰かに対して抱く思いを歌っているが、歌詞の内容からはその相手が人間である可能性が示唆される。

歌詞を掘り下げて考察してみよう。「カタストロフィ」という言葉は、厄災や破局を意味するが、レミリアがその気持ちを相手に伝えることで、不死とも言える吸血鬼と人間とでは幸せになれないこと、寿命の長さの違いから必ず訪れる別れが相手にとっても厄災となることを表現しているのかもしれない。自らの力を恐れ、人間と距離を置きながらも、内心では誰かに愛されたいというレミリアの切なる願いを歌っているのだろうか。歌詞の中で「必然」と「偶然」という対比が繰り返し登場し、レミリアの運命や選択についての思いが繊細に描かれている。ちなみに、幻想万華鏡でこの曲が挿入されるタイミングはレミリアと咲夜の共闘シーン。ということは…?(そう考えると尊い曲である。

この曲は、原曲の持つ感情を損なわずに、少女フラクタルの個性やセンスを加えた作品となっている。考察しがいのある歌詞と、レミリアの心情や運命に寄り添うような歌声が印象的な一曲。この機会にぜひ一度聴いてみていただけたら何よりだ。

クレジット表記

作曲:ZUN
アレンジ:HiZuMi
作詞:かませ虎
歌唱:柚木梨沙