「亡き王女の為のセプテット」ボーカルアレンジ厳選まとめ Vol.6
「亡き王女の為のセプテット」のボーカルアレンジ特集、第6回目をお届け。数多くのサークルによって生み出されてきた「セプテット」のアレンジ楽曲。そんな中から、各種サブスクリプションサービスで聴くことのできるボーカルアレンジを厳選してご紹介している。今回は、石鹸屋の「after」をピックアップしたい。
after
「石鹸屋」は、秀三氏とhellnian氏の二人からなる同人バンドだ。2005年に結成され、メンバーの変遷を経て現在の体制になった。ちなみに、二人は高校の同級生だそう。石鹸屋の音楽性は、80年代~00年代のメジャーな洋楽や邦ロックにルーツを持ちつつも、独自の世界観を確立している。時折オマージュやパロディを織り交ぜながら、ユニークな音楽を生み出すことでも知られている。サポートメンバーを迎えて、現在でも精力的にライブ活動を行っている。
今回ご紹介する曲「after」は、秀三氏が歌い、hellnian氏が作詞した「亡き王女の為のセプテット」のアレンジ曲。初出は、2008年に頒布された「TOHOHUM」に収録されたもので、2021年にはベスト盤である「石鹸屋の詰め合わせ」シリーズにも収録された。
「亡き王女の為のセプテット」は、レミリアのテーマ曲に相応しく、バロック調を帯びたような高貴で気高い雰囲気を持つ楽曲だ。数多くのアレンジャーによって再構築されてきたが、石鹸屋の「after」は、その中でもやや珍しい、ゆっくりとしっとりとした雰囲気のアレンジだ。静かなギターの刻みから始まり、包み込まれるような秀三氏の優しい歌声が印象的だ。
筆者の個人的な感覚だが、「after」は70年代~80年代に活躍したイギリスのロックバンド「The Police」の名曲「Every Breath You Take」と楽曲全体の雰囲気が近い。イントロのギターリフは、同じようなコード感やリズムを持っている。もしかすると、石鹸屋は「The Police」のファンで、彼らの楽曲にリスペクトやオマージュを込めて作ったのかもしれない。
あるいは、日本のロックバンド「くるり」の「ハイウェイ」や「ばらの花」も、石鹸屋の「after」と同じようなギターリフを持っている。これらの楽曲は、2000年頃に発表されたもので、当時の邦楽ロックシーンを代表する作品の一つだ。石鹸屋は、この時代の邦楽ロックシーンにも影響を受けている可能性も考えられる。
さらに、近年のロックバンド「マカロニえんぴつ」の「ヤングアダルト」のイントロのギターリフも、「after」とよく似ている。これは、「The Police」が「マカロニえんぴつ」に影響を与えたということなのかだろうか。それとも、「くるり」の影響なのだろうか。石鹸屋が他のバンドに影響を受け、他のバンドに影響を与えているとしたら、とても興味深いことだ。いずれにせよ、石鹸屋の「after」は、洋楽や邦楽のロックシーンからの影響を受けて作られた楽曲であることは確かだろう。石鹸屋のその他の楽曲と同様に、元ネタを探しながら聴くのも楽しいし、このようなロックの文脈を辿ってみるような聴き方もとても面白い。
「after」の歌詞は、おそらく咲夜の死後のレミリアの心情を描いたものと思われる。レミリアは、未来予知の能力と解釈されることもある「運命を操る程度の能力」を持ちながらも、咲夜との別れを受け入れられずに、彼女が帰ってくることを信じて待ち続けている。この曲では、そんなレミリアの様子が歌われているのだ。
「ドレスもリボンもいつものまま」という一節からは、レミリアが咲夜に対する想いを変えないことを示していると同時に、咲夜が二度と戻らないことを知りつつも待ち続けていることがうかがえる。咲夜との別離と二度と帰らぬ運命を理解しながらも、永遠の別れに耐えるレミリアの情景が、この曲に込められているのではないだろうか。
咲夜亡き後のレミリアの心情を描いた曲なので、「after」という曲名なのかもしれない。
歌詞カードを開き、レミリアの心情に思い馳せながら聴くことで、良質な短編小説を読んだ後のような余韻が残ることだろう。
このように、「after」はロックの文脈を愛するリスナーにはたまらない一曲なのだが、ロックファンでなくても「紅魔館メンバー」好きの東方アレンジファンなら必聴の一曲だ。レミリアに訪れた「after」を、切なく儚く、そして美しく表現した名曲。この感動的な楽曲を、是非この機会に聴いてみてはいかがだろうか。
クレジット表記
作曲:ZUN
アレンジ:石鹸屋
作詞:hellnian
歌唱:秀三