「亡き王女の為のセプテット」ボーカルアレンジ厳選まとめ Vol.3
「亡き王女の為のセプテット」のボーカルアレンジ楽曲は数多く存在するが、その中でも弊誌「東方アレンジだいすきクラブ」が厳選しておすすめする楽曲をピックアップしてご紹介するこの企画。3曲目は、古い楽曲とはなるのだが、筆者が特に愛してやまない岸田教団の「緋色のDance」だ。
緋色のDance
岸田教団&THE明星ロケッツは、作編曲やベースの演奏などを担当する岸田氏が主宰するロックバンドで、ボーカルはichigo氏が務めている。現在ではアニソン歌手としても広く知られているが、活動初期においては東方アレンジシーンで注目を集め、今日までそのアレンジ活動を展開し続けている。
2005年の冬コミで初めて東方アレンジを含むCDをリリースして以来、彼らの作品は着実に進化を遂げてきた。実は、初リリースとなるこのCDには既に、岸田氏が作曲し、ichigo氏が歌唱するというオリジナル楽曲も収録されていたのだが、その他の初期楽曲は大部分がインスト楽曲だった。その後、2007年に全曲ボーカル入りのCDを発表したことで、バンドは現在の形態へと発展していくことになる。
「緋色のDance」は、その頃にリリースされた「亡き王女の為のセプテット」アレンジ。2008年の「Electric blue」に収録された楽曲だ。あまり知られていないが、初出は2007年のレミ咲合同企画のコンピレーションアルバム「千夜一夜~Alf Layla wa Layla~」だ。音源はそれぞれ異なり、大まかな構成は同じながらも、ドラムのフィルやギターのカッティングなどの細部が全体的に違っている。
さらに、2013年のベスト盤にも収録されることになるのだが、この音源では明確な変化が見られる。単なる再録ではなく、演奏や歌唱、録音の技術向上、音質の向上、加えてギターのエフェクターがより飛び道具的な使い方になっていたりと、再解釈的な変更も多く見受けられる。
岸田氏が影響を受けたと語るミュージシャンの数は膨大ではあるが、中でも90年代から00年代の邦楽ロックシーンからは特に強い影響を受けたようだ。この楽曲も例外では無い。そのイントロは、「凛として時雨」というバンドの楽曲「DISCO FLIGHT」のオマージュとされている。具体的には、空間系エフェクトを重ねて音作りされたようなギターリフ、余白を持たせて期待感を高めながらディスコビートに展開していくドラムのフレーズなどから、影響を受けたことが感じ取れる。岸田教団の楽曲は「緋色のDance」以外にも、オマージュやリスペクトが多く、元ネタのある楽曲を探すのも面白い聴き方だ。
当時、筆者が岸田教団の他にハマっていた「凛として時雨」や「9mm Parabellum Bullet」など、いわゆる「ロキノン系」バンドから、この楽曲「緋色のDance」のように、別のバンドが影響を受けて新たな作品を生み出すプロセスは非常に面白く、興味深かった。それは、筆者自身がよりいっそう岸田教団の魅力に引き込まれるとともに、インディーズ文化や東方アレンジの世界に深く没頭するきっかけともなったのだ。
「緋色のDance」は岸田教団の他の作品と同様に、岸田氏がベースとバッキングギターを演奏し、ichigo氏が歌唱を担当している。また、はやぴ~氏がリードギター(ピロピロしている方がそれだ。)を、みっちゃん氏がドラムを演奏している。この楽曲においては、作詞についても岸田氏が手掛けている。曲調としては、全体的に迫力とリズミカルさが両立する岸田教団らしいギターロックとなっており、ichigo氏の力強い歌唱が楽曲をよく引き立てている。歌詞は深い意味が込められているというよりは、語感の良さや勢いを重視したもので、ストレートに楽曲のノリで直接勝負するようなスタイルだ。これが岸田教団の魅力の一つでもある。
この曲は東方アレンジや、原曲「亡き王女の為のセプテット」ファンにはもちろん、邦楽ロックの文脈を愛するリスナーにとっては必聴の一曲となっている。古い楽曲ではあるが、この頃の音源にはインディーズらしい独自の魅力が感じられる。近年の楽曲と比較することで、岸田教団の音楽性がどのように成長し進化してきたかを垣間見ることができるだろう。ぜひ一度聴いてみてほしい。