初期の東方アレンジシーンを象徴するサークルはいくつか存在するが、中でも筆者が特に思い入れのある「岸田教団&THE明星ロケッツ」「ビートまりお」「石鹸屋」について、彼らの過去と現在に着目して、その活動について紹介していきたい。
岸田教団&THE明星ロケッツは、現在では多くのアニメソングやオリジナル楽曲を手がけるアーティストとして有名になった。最近岸田教団を知った人であっても、東方アレンジ界での活躍を知っていることが多いだろう。しかし、活動の初期からオリジナル楽曲を発表していたことを知るリスナーは少数かもしれない。アニソンのイメージが強いことは確かだが、彼らのルーツである東方アレンジや初期のオリジナル楽曲も、岸田教団を語る上では絶対に外せないのだ。
ビートまりおは、下ネタを多用する下品な 独特の個性と、音楽的な才能や安定感のあるライブパフォーマンスなどが評価され、東方アレンジシーンの最初期から注目を浴びていた。そんな中、2020年にまさかのVTuberデビューを果たし、配信者としても活動するようになった。ビートまりお独自のキャラクターがVTuberという枠組みと親和性が高かったのか、YouTubeのチャンネル登録者数は伸び続け、現在では20万人を超えている。アニソン歌手としてメジャーを突き進む岸田教団と同様にビートまりおも、新たな活動の段階に入ったことは間違いないだろう。
一方、現在の石鹸屋の活動は一見すれば岸田教団やビートまりおほどの派手さはない。アニソン歌手として人気を博している岸田教団や、VTuberデビューして「インターネットサバイバー」をヒットさせたビートまりおと比べると、石鹸屋は近年のトレンドには乗れていない印象はある。これはメンバー脱退などの窮地を経験したことも無関係ではないだろう。
しかし、そんな困難を乗り越えながら、石鹸屋はライブを開催し続けてきた。つい先日には、岸田教団との対バンとなる「石鹸屋 LIVE DOJO YABURI VS 岸田教団&THE明星ロケッツ」というイベントを大成功させたばかりである。(石鹸屋と岸田教団の組み合わせは初期の東方アレンジシーンを連想させ、本記事を執筆するきっかけのひとつとなった。)
また、今年は新たなオリジナル楽曲のアルバムのリリースが予定されているなど、現在まで新曲を制作し続けている。さらに、石鹸屋のドラマーであるhellnian氏は、後発の音楽サークルの育成に非常に積極的であることも知られている。石鹸屋セッションバンドオフや「GrazyCrazy!!」という東方Projectの音楽アレンジサークルによるライブイベントなど、支援活動となるようなイベントにも力を入れており、東方アレンジシーンに新しい風をもたらし続けているのだ。
東方アレンジから次なるステップへと展開していく岸田教団とビートまりおに比べれば、石鹸屋は決して成功例ではないかもしれないが、今日においても精力的に活動し、同人の良さを失わずにいてくれる希少な例のひとつであることは確かだ。石鹸屋のメンバーは、自分たちに向いていないことに無理に手を出さず、自分たちのスタイルを大切にしているとも言える。メジャーでの売り方がうまくいかず、アニソンタイアップなどの機会に恵まれなかったことが、彼らの成功を妨げている一因かもしれない。今後の活躍も期待される石鹸屋には、もっとスポットが当たっても良いだろう。
これらのアーティストたちが初期の東方アレンジシーンの象徴的存在であることに感謝の気持ちを込めて、これからも彼らの音楽に耳を傾け続けたいと思う。そして、彼らがこれからも東方アレンジシーンに新たな風を吹き込んでくれることを願って、今後の活動にも期待していきたい。
【追記】読者さまよりご指摘を受け、近年のhellnian氏の活動に関する情報を加筆いたしました。情報提供に感謝申し上げます。