インディーズメタルシーンと東方Projectの関係

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メタルというジャンルは、そのヘビーなサウンドやダークなイメージからハードルが高いものと思われがちだが、実際にはメタルと一口に言っても多様な表現が存在し、日本独自のメタル文化も生まれている。「東方アレンジだいすきクラブ」が特に注目したいのは、インディーズメタルシーンと東方Projectとの密接な関係だ。この記事ではメタル初心者向けに理解しやすく、インディーズメタルシーンがどのように東方Projectと結びついているのか、詳しく探っていきたいと思う。

そもそもメタルって何?

メタルとは1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ハードロックやブルースロックから派生した音楽ジャンルの一つである。メタルはギターやベース、ドラムなどの楽器を用いて、高音域のボーカルや高速で複雑なリフやソロ、重低音や歪みの効いたサウンドが多用されることなどを特徴としている。メタルはその音楽性やテーマによって様々なサブジャンルに分類されるが、一般的にはヘヴィメタル、スラッシュメタル、デスメタル、ブラックメタル、パワーメタル、プログレッシブメタルなどに分けられるそうだ。

メタルは世界中で多くのファンやアーティストを持つポピュラー音楽の一つであるが、同時にマイナーでカルト的な側面も持っている。社会的なモラルや権威に対する反抗や批判、暗黒や悪魔やオカルトなどのダークなイメージやテーマ、音楽的な実験や超絶テクニックなどを表現する手段として用いられることも多く、なかなかとっつきにくいジャンルかもしれない。しかし、それゆえにメタルは独自のコミュニティやアイデンティティを形成してきたのだ。

本邦では1970年代から1980年代にかけて、欧米のメタルバンドに影響を受けた日本人バンドによって活動が始められた。日本のメタルシーンは、欧米のそれと比べて小規模であったが、それでも多様で独創的なバンドが登場した。例えば、「LOUDNESS」は日本初の国際的に成功したヘヴィメタルバンドとして知られており、1980年代に海外進出を果たし、日本人バンド初のビルボードチャート入りを達成している。1990年代以降にはビジュアル系と呼ばれる、独特なファッションやパフォーマンスを融合させた日本独自のムーブメントが起こり、「X JAPAN」を代表例として、「LUNA SEA」や「DIR EN GREY」などのバンドが人気を集めた。近年においても、アイドルとメタルという異種混合のスタイルを確立した「BABYMETAL」など、新しい試みが生まれ続けている。

このように日本独自のメタル文化も発展しているのだが、国内ではまだまだマイナーなジャンルだろう。メタルにあまり馴染みがないという方の中には、もしかするとこんなイメージを持っている方はいないだろうか(笑)。

間違ったメタルのイメージ

  • うるさい曲、激しい曲しかない
  • メンバーがモヒカン
  • ステージから火が出る
  • ダサい

実は、ほとんどのバンドではそのようなことはなく、音楽としてもかなり聴きやすいのがメタルというジャンルなのだ。

抑えておきたい有名同人メタルバンド

そんなメタルの中でも「同人メタルバンド」と呼ばれる独自の活動形態に注目したいと思う。同人メタルバンドとは、商業シーンとは異なり、同人誌即売会などで自主制作CDを頒布したり、ゲーム音楽やアニメを題材にしたアレンジやオリジナル楽曲を制作するバンドのことだ。これは日本ならではのメタル文化の一つといえよう。多くの同人メタルバンドと、特に密接な関わりがあるのが「東方Project」なのではないだろうか。東方アレンジ界隈から有名になったメタルバンドも存在している。ここでは、定番の同人メタルバンドのうち、東方Projectと関係の深いバンドをいくつかご紹介したい。

Unlucky Morpheus

日本のメロディックスピードメタルファンにとってはお馴染みのバンドがある。そのルーツには、「東方Project」が大きく関係しているのだ。「あんきも」の略称で知られる「Unlucky Morpheus」(アンラッキーモルフェウス)のことである。

Unlucky Morpheusは、2008年に天外冬黄氏と平野幸村氏の2人による同人サークルとして結成された。当初はアニソンのコピーや東方アレンジを中心に活動していたが、2013年頃からはオリジナル楽曲の制作もスタート。現在でも東方アレンジのCDをリリースしている。ライブ活動にはサポートメンバーを迎えていたが、2015年には現メンバーが確立された。

2017年には、オリジナル楽曲「Black Pentagram」のMVをYouTubeで公開し、国内外のメタルファンから大きな注目を集める。それ以降、国内のメタルシーンで有名なバンドの一つになった。筆者個人的な感覚としては、今、最も勢いのある日本のメタルバンドなのではないか。テクニカルでスピーディなメタルサウンドと、女性ボーカルの圧倒的な歌唱力が魅力のバンドだ。「メロスピ」好きならもちろん、東方アレンジ好きとしても抑えておきたいバンドだ。

IRON ATTACK!

「IRON ATTACK!」は、2007年に結成された同人メタルバンドだ。東方Projectの楽曲を中心に、ゲーム音楽のアレンジなどを行っていた。中心メンバーは、ギタリストのIRON-CHINO氏とボーカルのまいなすいょん氏。IRON-CHINO氏は、メジャーメタルシーンでも活躍するヘヴィメタルバンド「LIGHTNING」の中心人物でもある。

バンドの特徴は、高速でテクニカルなギタープレイと、クラシックやジャズなどの要素を取り入れた多彩な楽曲だろう。これまでに80枚以上の作品を制作し、同人誌即売会で頒布してきた。また、海外の東方Projectファンからも高い評価を得ており、ドイツや台湾、中国などでライブを行ったこともある実力派だ。

UNDEAD CORPORATION(あんこう)

「UNDEAD CORPORATION」(アンデッドコーポレーション)は、パインツリー氏とUnlucky Morpheusの平野幸村氏が中心となって結成した同人音楽ユニット。「あんきも」の姉妹サークルのようなイメージだ。

2010年の夏コミにて「幻想郷から超重低爆音」をリリースして以降、主に東方Projectのアレンジ曲を制作しており、ヘヴィメタルやメロディックスピードメタルの要素を取り入れた楽曲を特徴としている。アレンジはパインツリー氏が手掛けることが多く、「あんきも」とはまた異なる音楽性を楽しむことができる。

その後、UNDEAD CORPORATIONはオリジナル楽曲をリリースするロックバンドとして独立し、同人活動は「あんこう」名義で行われることになった。

Foreground Eclipse

「ふぉあぐら」とも呼ばれる、「Foreground Eclipse」(フォアグラウンドエクリプス)。東方アレンジやオリジナル楽曲をバンド形態で制作していた同人サークルだ。2008年に結成され、2013年に活動休止。方向性の違いから事実上解散となっている。中心メンバーは、ボーカルとギターのTeto氏、ボーカルのMerami氏。

東方Projectの楽曲を、メタルやロック、シンセを取り入れたピコピコサウンドなど多様な要素を取り入れてアレンジしている。厳密には、正統派メタルというよりは、スクリーモ(スクリームとエモーショナルな要素を組み合わせた音楽ジャンル)の影響が強く見られる。洋楽メタルコアやスクリーモジャンルに造詣の深いメンバーによって、レベルの高い楽曲が多数生み出された。

このサークルは、東方アレンジの中で独自のスタイルを確立し、スクリーモと東方アレンジを融合させた先駆的な存在となっている。力強くも透き通ったようなMerami氏の歌唱と、猛烈なTeto氏のシャウトの対話は他にはない魅力だ。活動休止となった後も、その名前は東方アレンジシーンで語り継がれている。

リブユウキ

続いてご紹介させていただきたいのは、福岡出身のボーカリスト、作詞家、アレンジャーであるリブユウキ氏。2007年から活動しており、「Imperial Circus Dead Decadence」や「Vaguedge dies for dies irae」(VAGUEDGE)などのバンドに所属。さらに、「UNDEAD CORPORATION」や「黒夜葬」、「Vermilion-D Alice Syndrome」などのバンドにもゲストボーカルとして参加している。

「Imperial Circus Dead Decadence」もまた、当初は同人サークルとして2007年に結成されたが、現在では「あんきも」同様に世界的に有名なメタルバンドとなっている。メタルの要素に、ヴィジュアル系の要素を足したような世界観を持っていることが特徴的。

また、「Vaguedge dies for dies irae」は、同じく2008年に結成された同人メタルバンドで、東方Projectのアレンジ曲を中心に、モダンメタルやメロディックデスメタルなどのジャンルを取り入れた楽曲を制作した。「あんこう」や「黒夜葬」でも東方アレンジを歌唱している。

終わりに

いかがだっただろうか?メタルに詳しくない方は、メタルに対するイメージが変わったのではないだろうか。

本記事では、インディーズメタルシーンと東方Projectの関係について紹介した。インディーズメタルシーンと東方Projectは、音楽的にも文化的にも相性が良く、東方Projectとの繋がりを持ったバンドも多く存在する。両者はサブカルチャー的でカルト的な側面を持ちながらも、独自のコミュニティやアイデンティティを形成しており、自由な表現を行える環境が整っている。このような親和性の高さが、両者の関係を支えているのかもしれない。

同人音楽サークルから一躍有名なメタルバンドへと成長した「Unlucky Morpheus」や「Imperial Circus Dead Decadence」などの存在は、インディーズメタルシーンと東方Projectや同人文化の深い関係性を物語っているのではないだろうか。

是非この機会に、彼らの音楽を聴いてみていただきたい。


【追記】読者さまよりご指摘を受け、Foreground Eclipseの解散時期を修正しました。情報提供に感謝申し上げます。