伝説的な楽曲、DiGiTAL WiNGの「Paranoia」を紹介|多数のバージョン違いも解説

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「ハルトマンの妖怪少女」ボーカルアレンジ厳選まとめ Vol.2

前回に引き続き、東方Projectの名曲「ハルトマンの妖怪少女」のボーカルアレンジを厳選してご紹介!今回ピックアップするのは、DiGiTAL WiNGによる「Paranoia」だ。デジウィとも呼ばれるDiGiTAL WiNGは、ポップなダンスミュージックを中心にエンターテインメントを提供する創造的なサークルで、2011年の冬コミから活動をスタート。サークルの代表を務めるのはkatsu氏。主に東方Projectの二次創作に取り組んでおり、CD製作だけでなく生放送やライブパフォーマンスなど、幅広い活動を現在まで展開し続けている。

Paranoia


「Paranoia」という伝説的な楽曲をご存知だろうか。DiGiTAL WiNGが発表した、「東方地霊殿」の古明地こいしのテーマ「ハルトマンの妖怪少女」のアレンジ曲だ。ジャンルはクラブダンスミュージックで、レイヴ感満載のサウンドとクールな歌声が融合した、踊りたくなるようなノリの良い一曲。歌詞には「恋し」「無意識」など、こいしのモチーフが散りばめられており、こいしの心の奥底に潜む感情や願望を暗示している。

曲名の元ネタはこいしのスペルカード「弾幕パラノイア」で、「Paranoia」は「偏執病」という意味。偏執病は精神病の一種で、誇大妄想や被害妄想などが症状として現れる。このスペルカードは派手な弾幕が難易度を高く感じさせるが、実際には見かけよりも避けやすいという特徴があり、その点が誇大妄想とかけたスペルカードの名前の由来とされている。ただ単にスペルカードの名前を借りてきただけでなく、「Paranoia」を曲の一つのテーマとして、こいし自身の内面や複雑な感情、そして二面性を音楽と歌詞とで深く描写している。

この曲の初出は2013年の「RAVER’S NEST 1 TOHO RAVE PARTY」というアルバムで、その後も「ENDLESS of Paranoia」「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」などのアルバムに多数のリミックスが収録されている。初出バージョンの楽曲アレンジはFN2氏が手がけ、歌唱は花たん氏が担当した。作詞はHalozyのすみじゅん氏によるものだ。

この楽曲を語る上で外せないのは、ニコニコ動画上で公開されたMMD動画の存在だろう。筆者が「Paranoia」に初めて出会ったのも、この動画がきっかけだ。可愛らしいこいしがクールに踊るダンス映像は、ダンサブルな音源とぴったりとマッチしており、この曲の魅力に引き込まれたことを鮮明に覚えている。この動画は大ヒットし、現在までに200万回以上の再生数を記録している。この動画が「Paranoia」とともに「DiGiTAL WiNG」の知名度を高めたとも、東方人気投票における古明地こいしの初の1位に影響したとも囁かれているほどだ。公式YouTubeチャンネルには、音源を新しいものに差し替えた動画もアップロードされているので、ぜひ一度ご覧になっていただきたい。

Paranoia (MMD EXTEND Ver.)

「DiGiTAL WiNG」といえば「Paranoia」というほど人気の楽曲で、DiGiTAL WiNGのライブでもお馴染みの一つだ。この楽曲はその人気を象徴するかのように、バージョン違いが非常に多いことも特徴的。初めて聴く人にとってはどのバージョンから聴けば良いか迷うこともあるだろう。筆者の手元にある音源について、その違いを解説していきたい。

  1. 「RAVER’S NEST 1 TOHO RAVE PARTY」の「Paranoia」
    初出のもので、花たん氏による歌唱。イントロでは、ラジオ番組のパーソナリティが曲の紹介をしているようなナレーションと、聴衆の歓声の効果音が入っている。
  2. 「RAVER’S NEST 1 TOHO RAVE PARTY」の「Paranoia (DJ katsu CLUB EDIT)」
    初出のアルバムにボーナストラックとして収録されたもの。ナレーションや歓声の効果音がなくなるなど、新たな楽曲となっている。歌唱は変わらず花たん氏が手掛ける。
  3. 「HANA TOHO BEST」の「Paranoia」
    「HANA TOHO BEST」は、花たん氏の歌う東方アレンジをまとめたベスト盤で、花たん氏が主催する「cordelia」というサークルからリリースされた。現存する通販サイトなどの情報の中には「Paranoia」とだけ記載されていることがあるが、実際には上記のDJ katsu CLUB EDITと同一のもの。ブックレットには「Paranoia (DJ katsu CLUB EDIT)」と記載されている。
  4. 「RAVER’S NEST BEST 2014 TOHO HYPER RAVE」の「Paranoia」
    上記のDJ katsu CLUB EDITとほぼ同じだが、歌唱を部分的に短いループで繰り返すエフェクトの一種が無くなるなどの変化がある。こちらも歌唱は同じく花たん氏が手掛ける。
  5. 「ENDLESS Of Paranoia」の「Paranoia (Original MIX)」
    Original MIXという名称になっているが、上記の楽曲のいずれとも異なる。イントロのあとにサビに入らない構成。歌唱については上記の楽曲と変わらず、花たん氏によるもの。
  6. 「ENDLESS Of Paranoia」の「Paranoia (東京アクティブNEETs REMIX)」
    東京アクティブNEETsらしいジャズやスイング調のリアレンジが施され、楽曲自体がまた新たな魅力を持つようになった。しかし、歌唱は変わらず花たん氏が担当している。
  7. 「ENDLESS Of Paranoia」の「Paranoia (EDM REMIX)」
    Alstroemeria Recordsなど、多数のサークルにアレンジを提供してきたVALLEYSTONE氏によってEDM調にリアレンジ。歌唱は引き続き、花たん氏が担当する。
  8. 「ENDLESS Of Paranoia」の「Paranoia (J-ROCK REMIX)」
    この楽曲もまた大きくリアレンジされており、主に音楽ゲーム界隈で有名なtilt-six氏によってロック調に仕立て上げられている。邦ロック的な音作りというよりは、ややヘビーで歪んだギターサウンドが特徴。歌唱は花たん氏によるものだ。
  9. 「ENDLESS Of Paranoia」の「Paranoia (DiGiTAL WiNG 2015 LIVE MIX)」
    イントロ前に歌唱が入るなど、Original MIXなどとは曲の構成が異なる。最大の変更点は、ボーカルがpeЯoco.氏へと替わっていることだ。花たん氏はライブなど表舞台への登場は少ないため、初期のライブはpeЯoco.氏による歌唱が多かった。
  10. 「DiGiTAL FLOWER BEST」の「Paranoia (東京アクティブNEETs REMIX)」
    「DiGiTAL FLOWER BEST」は花たん氏が歌う楽曲を集めた、DiGiTAL WiNGのベスト盤。上記の「ENDLESS Of Paranoia」に収録された、東京アクティブNEETsによるリアレンジと同一。
  11. 「Flapping note – Hello My Name Is Sorane -」の「Paranoia (DiGiTAL WiNG 2018 LIVE MIX)」
    このアルバム「Flapping note – Hello My Name Is Sorane -」は、DiGiTAL WiNGの新ボーカル空音氏が歌う楽曲を集めたもの。上記のDiGiTAL WiNG 2015 LIVE MIXをベースとして、peЯoco.氏から空音氏の歌唱へと変更したことが大きな違い。ボーカルのミキシング手法の違いもわかりやすい。空音氏の加入後、この曲はライブでも空音氏によって歌われることが多くなった。
  12. 「東方歌ってみた」の「Paranoia (SBver1 Remix)」
    こちらの楽曲は完全に別物となり、森羅万象のkaztora氏とHedonist氏によるリアレンジが施されたバージョンとなっている。ACTRock氏が歌詞を再構築し、あやぽんず*氏とあよ氏によるツインボーカル楽曲となっている。
  13. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (Original MIX)」
    上記「ENDLESS Of Paranoia」に収録された「Paranoia (Original MIX)」と同一の楽曲で、歌唱も花たん氏が担当している。
  14. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (DJ katsu Fashionable REMIX)」
    このバージョンはkatsu氏によって大幅にリアレンジされ、様々なエフェクトを多用して「オシャレ」な雰囲気を醸し出している。歌唱は花たん氏が担当する。
  15. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (COOL&CREATE Remix) まろん feat.ビートまりお」
    このバージョンも全く新しい楽曲となっている。まろん氏がリアレンジし、ビートまりお氏が歌唱。ゆっくりボイスも登場し、COOL&CREATE色が全開になったアレンジだ。
  16. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (SBver2 Remix)」
    森羅万象のkaztora氏とHedonist氏によるリアレンジだが、先述の「東方歌ってみた」のものともまた異なるバージョン。テンポが落ち、ノリノリな雰囲気から一転して、妖艶なイメージすら感じさせる仕上がりに。
  17. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (KANAMO REMIX)」
    COOL&CREATEや森羅万象にもアレンジを提供する神奈森ユウ氏による、Paranoia原曲を活かしたEDM調のアレンジ。幽閉サテライトからYuzurisa氏がボーカルとして参加。
  18. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (コンプ REMIX)」
    豚乙女のコンプ氏がリアレンジし、ランコ氏が歌唱する楽曲。豚乙女らしいロック調の楽曲だが、シンセサウンドも使用され、Paranoia原曲の面影が感じられる。
  19. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (東京アクティブNEETs REMIX)」
    東京アクティブNEETsによるリアレンジ、花たん氏が歌唱している楽曲。上記の「ENDLESS Of Paranoia」に収録されたものと同一。
  20. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (イノライ REMIX)」
    イノライのACTRock氏によるリアレンジで、cheluce氏が歌唱している。アップテンポながらもどこか儚さを感じるロックサウンドに仕上げられており、原曲「ハルトマン」の印象的なフレーズも追加されている。
  21. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (TOS Remix)」
    空音氏が歌唱するLIVE MIXと同じ始まり方だが、それ以降の展開は魂音泉のCoro氏によるリアレンジ。魂音泉らしいラップももちろん入っている。リリックの再構築と歌唱はytr氏と抹氏が担当する。
  22. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (ALR REMIX)」
    Alstroemeria RecordsのMasayoshi Minoshima氏がリアレンジし、空音氏が歌唱している。楽曲は静かで幻想的なイントロから始まるが、次第にParanoiaらしいノリの良いテンポ感に展開していく。
  23. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (DiGiTAL WiNG 2019 LIVE REMIX)」
    DiGiTAL WiNG 2018 LIVE MIXと近い構成で、歌唱も同様に空音氏が担当している。
  24. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「ZUNnoia (超 東方LIVEステージ 2018 Ver.)」
    東方アレンジとしても数少ない、ZUN氏の肉声が入っているという楽曲。LIVE MIXを更にリミックスして替え歌にしたもので、ニコニコ超会議内の生放送「超 東方LIVEステージ 2018」で披露されたMCやコールアンドレスポンスなどがそのままライブ音源のように収録されている。ZUN氏の声を楽しむ(?)ことができる、ファンにはたまらない一曲。
  25. 「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「ZUN令和 (超 東方LIVEステージ 2019 Ver.)」
    ZUNnoiaの2019年バージョン。こちらも神主の肉声入りだ。
  26. 「東方九十九折」の「Paranoia (2021 Melon Version)」
    メロンブックスが企画するコンピレーションアルバム「東方九十九折」に収録されたバージョン。空音氏が歌唱しており、大まかな曲の構成は2018 LIVE MIXや2019 LIVE REMIXと同じような内容となっている。

これらに加えて、多数の音楽ゲームにも収録されている。「ダンカグ」で使われているバージョンは「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」の「Paranoia (DiGiTAL WiNG 2019 LIVE REMIX)」がベースとなる。「maimai」「CHUNITHM」「オンゲキ」では、「RAVER’S NEST 1 TOHO RAVE PARTY」に収録されている「Paranoia (DJ katsu CLUB EDIT)」をベースにしている。尺を短く調整するなど、音楽ゲームに合わせて手が加えられている。公式Twitterによると、「アゲアゲなEDITバージョン」と紹介されている。

以上、Paranoiaについての解説となる。改めて整理してみると、驚くほどバージョン違いの曲数があるのだが、そのどれもが聴き応えのあるものばかりだ。Paranoia原曲はもちろんのこと、他サークルとのコラボレーションは、それぞれのサークルの特色を生かしつつも、Paranoiaの魅力を様々な角度から引き出している。どのCDから聴けば良いのか迷ってしまう方には、「Paranoia THE BEST – 7th anniversary –」をおすすめしたい。Paranoiaの決定版とも言える、素晴らしい一枚だ。