
サブスクリプション配信(通称:サブスク)とは、定額料金を支払うことで無制限にコンテンツを利用できるビジネスモデルを指す。音楽分野においては、SpotifyやApple Musicなどのプラットフォームがそれに当たる。今回の記事では、東方アレンジ音楽界隈におけるサブスク配信の動向に注目し、その魅力と課題を探る。
2018年10月、ZUN氏の許可を得て、「東方同人音楽流通」という企画がスタートした。これは東方Projectの原曲やアレンジ曲をiTunes StoreやApple Musicなどのサービスで購入できるようにするという取り組みで、現在では多くのサークルが参加している。その一方で、サブスク配信が既存の物理媒体の役割を全面的に代替するという状況には至っていないようだ。今回は、サークルとリスナーの視点からサブスク配信の利点と欠点について、筆者が行ったアンケートの結果やそのコメントも参考にして、深掘りしていきたい。
サークルの視点から見たサブスク配信
メリット
持続的な収入源
サブスクサービスを通じて楽曲を配信するサークルは、定期的な収入を得ることができる。これは一回限りの販売とは対照的で、安定した収益源となり得る。2021年のデータによれば、還元率が高いとされるApple Musicでは平均再生単価は約1円、無料で使用できるSpotifyでは約0.5円となる。サービスの普及に伴って一人あたりの再生数が増加していることや、為替の影響も考えられ、現在はこれを下回るだろう。ここから原曲使用料が引かれ、上海アリス幻樂団や黄昏フロンティアなどの権利者に分配されることになる。2023年現在、楽曲が1回再生されると、サークルには0.1~0.4円程度還元されると推測される。一見するとこの金額は非常に低いが、リスナーが増えれば増えるほど得られる利益も増えるため、サブスク利用を浸透させることができれば持続的な収入となる。
作品の普及
サブスク配信により、東方アレンジは世界中のリスナーに広まり、新しいファンを獲得するチャンスが増える。これまで行われてきたイベントでの頒布やBOOTHでの通販に加え、サブスク配信という新たな販路が加わることで、楽曲を聴いてもらえるチャンスも増えるだろう。
デメリット
作品体験の限定
物理媒体の場合、アルバム全体としてのコンセプト、さらにはブックレットなどの付属物による付加価値が存在するが、サブスク配信ではその体験が限定されてしまう。配信システムの仕様上、音楽的な演出が実現できなかったり、ブックレットとともに一つの作品として楽しむことを重視するサークルにおいて、サブスク配信に対して慎重な姿勢が見受けられた。
プラットフォーム依存
サークルの作品を直接販売するという自由度が低下し、音楽配信プラットフォームのビジネスモデルや方針変更に左右されるリスクが存在する。二次創作である以上、制約は当然のことではあるが、東方同人音楽流通の立ち上げ初期、BOOTHでの頒布が行えなくなった際などに混乱が見られた。
リスナーの視点から見たサブスク配信
メリット
手軽さ
多くの楽曲を手軽に、また安価に聴くことが可能である。また、CDプレイヤーやパソコンを持っていなくとも問題ない。実際、筆者が行ったアンケートでは、過半数のユーザーがサブスクを利用しているとの結果が出ている。
新しい音楽との出会い
サブスクサービスは、ユーザーの好みに基づいて新しい音楽をおすすめする機能を提供している。これにより、まだ知らない東方アレンジと出会う機会を得られる。プレイリストの共有など、楽しみ方も多様だ。
デメリット
配信されていない音楽
サブスク配信では、リスナーが聴きたいサークルの音楽が全て揃っているわけではない。これは、そのサークルが活動を停止しているため契約が難しい、あるいはサークル自身の意向で配信を控えているなど、さまざまな理由によるものである。
音質の問題
サブスクサービスでは、音質がCDと比べて劣ることがある。「東方同人音楽流通」を通じて配信された一部の楽曲はApple Musicのロスレスオーディオに対応しており、CD相当の音質で鑑賞できるものの、過去に配信された楽曲の中にはそうでないものも含まれている。混在している現状も、音質にこだわるリスナーにとっては問題だろう。
物理媒体の価値
現物をコレクションしたり、歌詞カードを手に取りながら聴くといった体験は、サブスク配信では得られないものだ。アンケートには、カセットやレコードという特殊な頒布物の収集を楽しんだり、イベントでの購入体験自体を大切にしているというコメントも寄せられた。
以上がサブスク配信のメリットとデメリットについての考察だ。サークルにとっては持続的な収入源となる可能性がある一方で、表現できる作品体験は限定される。今後も物理媒体との棲み分けがなされ、一定の需要を保っていくのだろう。リスナーにとっては新たな東方アレンジとの出会いが手軽になる一方、一部サークルの音楽がまだ揃っていないという問題も。それでも、筆者が実施したアンケートでは、60.7%のユーザーがすでにサブスクを利用しているという結果が出ている。これはサブスク配信の普及とその可能性を示している。
東方同人音楽流通のこれまでと今後
「東方同人音楽流通」の立ち上げ初期には、販路の独占についての懸念や、システムの複雑さ、参入ハードルの高さが指摘されることもあった。これらの課題は、公式サイトの情報更新とサポート体制の拡充、そしてサークルとの連携強化により改善可能だろう。また、一部配信されていない楽曲については、サークルの活動停止など、解決が困難な事情もあるとはいえ、東方同人音楽流通が広く門戸を開くことで、ある程度は解消されることだろう。筆者個人的な意見としては、サブスクサービスのサイト上で原曲を知ることができたら最高だが、これはさすがに難しいか。
このように、東方同人音楽流通の取り組みにはまだまだ改善の余地があることは事実だ。しかしながら、サブスク配信は東方同人音楽流通のネゴシエーションの成果であり、ZUN氏の公認を得た上で、物理媒体に限られていた東方アレンジの選択肢を大きく広げたのは確かな事実だ。原作者やアレンジャーへの正当な報酬の分配により、業界全体の発展を促進していることには大きな意義がある。違法アップロードも多かった中、権利者に利益が配分されるようになったのはサークルにとってもリスナーにとっても歓迎すべき動きだろう。東方アレンジ界隈の発展に寄与し、サークルとリスナー双方にとって新たな体験の可能性を広げた東方同人音楽流通の動きには賛同をするとともに、深く感謝の意を表したい。
今後も、東方アレンジがさらなる進化と躍進を遂げ、より多くのリスナーに届くような未来を期待すると同時に、音楽配信の発展と共に東方アレンジ界隈の活性化を見守り、サポートしていきたい。
参考文献
米アップルの楽曲ストリーミングサービス「Apple Music(アップルミュージック)」がストリーミング1回について支払っている料金を初めて明かした。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が確認した16日付の書簡によると、アップルは音楽が配信されるたびに0.01ドル(約1円)を支払っていると、アーティストに通知した。
WSJスクープ – アップル、音楽ストリーミングの報酬を通知 1回あたり約1円
2020年の第4四半期で比較すると、Apple Musicが0.76円、Spotifyが0.28円ということで、3倍近い開きがあります。
AppleとSpotifyのストリーミング報酬比較で浮かび上がる、音楽コンテンツビジネスの次の戦略 – ITmedia NEWS
東方同人音楽流通
- 販売価格の50%という明瞭な入金
- 東方Project二次創作配信の著作権処理を代行